江戸時代の民間出版社による文学系の書物は、木版印刷によって製作された。彫刻によるアウトラインの単純化と力強さが顕著に見られる。
元禄文化を中心とした江戸時代前期では、仮名草子・浮世草子・八文字屋本がある。仮名草子は、漢籍・仏典等の漢文や漢字の多い書に対し、仮名を主とする書の意味である。浮世草子は1682年から1783年までの間に、上方を中心に出版された小説をさす。また、京都の書店・八文字屋〔はちもんじや〕から出版された浮世草子などの総称を八文字屋本という。
読本・洒落本
読本は、それまでの小説の主流であった浮世草子にはない思想性を備え、浮世草子の俗文体とは異質の和漢混淆文を用いた知的な歴史・伝奇小説である。上方中心の前期読本と、江戸中心の後期読本にわけられる。洒落本は享保年間の中頃から天保年間の頃まで、はじめは上方のち江戸を中心として刊行された一種の遊里文学である。
草双紙とは、史的展開にしたがって、赤本、黒本、青本、黄表紙、合巻と呼ばれる一群を総称するものである。江戸の地で出版された絵入通俗小説の一種だ。
談義本は世相風俗の描写の中にさまざまな教訓をおり込んだ読み物である。滑稽本は滑稽な内容を主とする中本型の小説類で、享和年間以降の、式亭三馬や十返舎一九の書いたような浮世物真似や落話などの話芸と関わりの深い会話体の作品をさす。人情本は洒落本の後をうけて発生した。洒落本との違いは遊里にとらわれないところにあり、おもにその恋愛の成り行きをつづっている。江戸における流行の風俗を描くことに加え、いきいきとした会話文を用いるところに特色がある。