06B-1 和字書体「げんろく」のよりどころ
井原西鶴(1642—1693)は小説の流行作家としてつぎつぎに傑作を発表した。西鶴の作品のいずれもが、元禄の町人や武士の実生活の様相を見すえた作品である。特に晩年から没後の遺稿では、経済社会の夢と現実の落差の間で生きるために苦しむ無名の人間達が描写されている。
大晦日の短編集である『世間胸算用』は美濃判5巻構成で、各巻4話ずつ全20話からなっている。元禄時代の町人にとって1年間の総決算日である大晦日の賃借支払いの諸相を描いたもので、多くは下流階級のやりくり算段である。
ほとんどが京都・大坂を舞台としており、長崎などを舞台としていても登場人物が京都・大坂の住人である。つまり上方中心の題材に限定されている。また名もない中流階層や極貧層の町人が主役であって大町人は引き立て役にすぎず、もっぱら借金返済のやりくり話に集中している。
活字書体「げんろくM」